未来のかけらを探して

2章・世界のどこかにきっといる
―26話・憂鬱へ続く道―



焼いた肉を食べて人心地ついたので、今度はアルセスへの質問タイムになった。
何しろ会ってすぐなので、色々と聞きたいこともあるのだ。
「およめさんさがしてるって言うけど、アルセスってどんな種族なの?」
「そーそー。なんか強そうな感じはするけど、かいだことないニオイだよネ。」
会った事のない種族でも、においで肉食か草食かくらいの区別はつくことが多い。
「おれは獣人族。って言っても、他の仲間は見たことないんだよな〜。」
先程も六宝珠が口にしていたが、今まで聞いたことも無い種族だ。
他の仲間を見たことが無いということは、数が少ないのかもしれない。
「え、お父さんとかいないのぉ?」
「うーん。育ててくれた父ちゃんと母ちゃんは居るけど、
本とのはちょっと会ったことない。」
「そっかー……。」
「まぁ、父ちゃんも母ちゃんも優しいから、全然気にしてないけどさ。
それより、お前らはちっちゃいのに、群から離れちゃってるじゃないか。
寂しかったりしないの?」
「うーん、ちょっとさみしい気もするかもぉ。」
「かもって……。」
エルンの返事に、肩すかしを食らったアルセスは脱力してしまった。
しかし、これに関しては他のメンバーも似たようなものだ。
「だって、みんながいるもん。」
「それに、それどころじゃなかったりするしネ!」
「それは言えてるかも……。」
パササがあっけらかんと言い放ったとおり、
ホームシックに浸る暇なんてなかった気もする。特に、ここ最近は。
しかし言われてみれば、ちょっとさびしくなってくる。
郷愁や家族を恋しく思う気持ちは、落ち着いてはじめて実感するものかもしれない。
そう思うと、めまぐるしかった今までの流れは、果たしていいのか悪いのか。
寂しく思わないで済んだと思えばいいかもしれないし、
それすら考えられないほど散々といえば、それもそうだ。
どの道、今までの道のりが平坦とはいえないことに変わりはないが。
「ところでさ、あそこの道はくずれちゃってたよね?
どうやってダムシアンまで行けばいいんだろ……。」
このままだと話が進まないので、プーレは多少強引に話題を変えた。
すると、すばやく頭を切り替えてアルセスがそれに応じる。
「あ、ダムシアンに行きたいのか?それならおれが案内してやるよ。
おれ、地下水脈の近くに住んでたからさ。」
“じゃあ、アルセスはまだ旅を始めてからそんなに経っていないだろう?”
「うん、ついこの間。まだ2週間くらいかな?」
「え、そうなの?!」
てっきり結構旅しているものだと思っていたプーレは、すっとんきょんな声を上げた。
年ははるかに上だから、かなり意外に思える。
「じゃあ、ボクたちの方が長いネ!2週間よりもっと長いヨ!!」
「そっかー、じゃあ旅はお前らのほうが先輩だな!頼むぜ先輩!」
「わ〜!」
ぽんとアルセスに肩をたたかれて、パササはノリノリでガッツポーズを決めた。
どこの漫才かはともかく、
冒険歴と実年齢のギャップでかなりシュールな光景だ。
どこか違和感がぬぐえない様子のプーレの顔は、複雑というよりもむしろ渋いものになる。
「何か違う気がするんだけど……。」
“いやー、違わないぞ。イチジクの長って言ってな、
1日早く芽が出たイチジクの方が先輩という意味で……。”
“嘘を教えるな嘘を!!それを言うなら、一日の長だ!”
“あ、ひどいなー。俺に恥を欠かせないでくれよ。
もっとこうさりげなくつっこんでくれないわけ?”
お得意のもっともらしいウソ知識の披露を邪魔されて、
エメラルドは心底不満そうに口を尖らせた。
もちろん、文字通り全くへこまないエメラルド相手に、ルビーはいちいち気を使わない。
“お前の信用なんてとっくの昔に地に落ちてるから、いまさらだ。”
“あ、差別ー。やーだね、こういう石っころ。”
ルビーにきっぱり言い切られて、面白くなさそうにエメラルドが軽口をたたいた。
袋の中で飛び交うテレパシーを傍で聞くアルセスは、
慣れないせいで生じる何ともいえない違和感を、一人ありありと感じているようだ。
「石がケンカしてるって、変な感じがするなー……。」
「だいじょうぶだよぉ、うるさいだけで安全安全〜。」
「そーいう問題じゃないんだけどなぁ……。」
アルセスは釈然としないが、感覚がずれているエルンにはわかってもらえない。
エルン当人は、ただいつもの事だから気にするなといいたいはずだが、
言い方がどうも不親切といえば不親切だ。
「でもいつものことだから、気にしない方がいいよ。」
エルンと同じ気持ちであろうプーレが、彼女の言葉を引き継ぐようにアルセスに言った。
いちいち気にしていたら、彼らとは付き合いようが無い。
世の中は全て慣れと適応だ。そう言っているかのようでもある。
“はぁ……。で、いつ出発するんだ?”
「食べ終わったし、もう行こうヨ!」
山を越えたら大嫌いなくそ暑い砂漠が待っているというのに、パササはちょっとせっかちだ。
おなかが膨れて、今度は動きたくなったのだろう。
そもそもが迂回ルートを探している現状だからか、じっとしていられない気分らしい。
足止めを食らっている馬車で行くよりも到着が遅れたら、確かにしゃくな気もする。
そうでなければ、嫌な事から逃げられないなら、
逆にさっさと済ませたいかのどちらかだ。どちらにしろ、行動を急ぐことに変わりは無い。
「え〜、もう行くのぉ?」
“俺も食休みしてないんだけどな〜……。”
「お前は食べてないダロ!!」
ぼそっとつぶやいたエメラルドに、即座にパササが的確なつっこみを入れる。
全く、うっかり聞き流せないセリフだ。
こんなことを唐突に言うので、エメラルドはある意味油断できない。
「ど、ドサクサ紛れに変な事言うなよ〜……。
変な空耳かと思ったじゃないか!」
一瞬本気で耳を疑ってぎょっとしたらしく、アルセスは憤慨気味に抗議する。
“本当に空耳だったら、よかったんだけどな……。”
ルビーがあきれてつぶやく。
石が食物を食べるわけがないのに、何を言うやらである。
「もー、遊んでないで行くなら行こうよ!」
『は〜い……。』
「なんだかな〜……。まあいいや、とにかくおれについてきなよ。」
色々と無駄話や脱線が多かったが、
ともかくプーレたちはアルセスの案内に従って、ダムシアンを徒歩で目指すことにした。




アルセスが通ってきたという道は、馬車が通れないほど狭い道だった。
平たく言えば、獣道である。
鹿がさっき通っていたらしく、真新しい足跡も残っていた。
人間なら歩きにくいと文句を言うものもいるかもしれないが、
パーティ全員が人間ではないのでまったく問題はない。
この間のキアタルもそうだったが、
住んでいた場所や今まで旅してきたところと気候が違うので、見慣れない植物も時々ある。
それらに時々足を止めつつ、ちんたらのんびり進んでいく。
切羽詰っているほど急ぐわけでもないので、のんきなものだ。
「お前ら、道草食い過ぎだって……。」
30分ほど歩いたところで、アルセスが苦笑いしながら言った。
彼の後ろには、文字通り道草を食っているパササとエルン、そしてプーレまでいる。
小腹が空いたのか、道の脇の低い木に絡んでいたキャメットの実を食べているのだ。
キャメットは全草美味のつる性植物。
人間の手に似た独特の葉っぱと、いびつでカラフルな実は間違えようが無い。
丈夫な植物なのであちこちで見かけるが、ここも例外ではないようだ。
甘い実は、人間でなくても魅力的である。
「アルセスも食べれバー?」
「あ、じゃあ3個くらい。」
誘われて自分も食べてしまうあたり、アルセスもちょっとノリがいい。
しかも3つも食べる気だ。
こうしてアルセスまで食べ始めたので、結局数分そこで立ち止まってしまった。
「なんだか、さっきっから食べてばっかりな気がする……。」
“気がするじゃなくて、本当にそうだぞ……。”
プーレが何気なくつぶやくと、
先が思いやられるといいたそうにルビーがそれに応じた。
もっとも、控えめなつっこみだったので誰も気に留めないが。
「それにしてもさ〜、ほんっと暑いよぉー……。」
ばさばさ襟首を引っ張って首元から熱を逃がしながら、
エルンが今にもしなびそうな情けない声でぼやいた。
「おいおい、まだこんなの涼しいほうだぞー?」
「え゛〜……マジで?」
「やだなぁ〜、丸焼きになっちゃうよぉ〜。」
「あのさ、そんなに嫌なら行かなきゃいいじゃないか?」
行きたくない行きたくないといいながら、
なんで行こうとするのか分からずにアルセスは首をひねる。
さっきはいきさつを軽く話しただけで、まだダムシアンにいく理由を説明していないので当然だ。
“チッチッチ、そうは問屋がおろさないんだぜ?
俺たちの仲間探しのためには、いったんダムシアンまで行かないとだめなんだな〜。”
「え、もしかしてそこにあんたらの仲間がいるのか?」
それなら、プーレ達が嫌々ながらも向かう理由がわかる。
当たらずとも遠からずといったところだが、ちょっと違う。
そこで、ルビーがエメラルドの説明に補足する。
“いや、そこを通って他の所に行くためだ。
さっきまで俺たちがいた国がキアタルって言う小さな国で、
そこからいける国がダムシアンしかなくてな。
他のところに行くには、船が使えないと不便だから仕方ないって言うわけさ。”
「なーるほど……。だから嫌でも行かなきゃいけないのか。」
『うん。』
ようやく合点がいったとうなずくアルセスの言葉に、
異口同音にプーレ達が肯定の返事をした。
その顔にそろって浮かぶ嫌そうな表情に、アルセスは彼らの心情の全てを悟った気分になった。
「た、大変だな。ほんとに。」
生きていると、嫌でも避けて通れないことは多々あるが、彼らは今回まさにそうなのだろう。
それも、短い生涯の中で最大級に。
アルセスは、人生の大先輩として彼らに心中で合掌した。
「ところで、お前らってどのくらい暑さがだめなわけ?」
「ぼくはそうじゃないけど、
この2人は最初に会った時に、あんまり暑くなかったのにばててたよ。」
思えば今はだいぶ暑さに慣れているようだが、
初めて会った時は驚くぐらい弱かった。もっとも、当人には恥ずかしい思い出に違いない。
パササは少しむっとして、プーレの肩をぺしんと軽く引っぱたく。
「あ!プーレ〜、それは言わない約束ダヨ!」
「そんな約束してないけど……。」
「も〜、わかってないなー!男の約束だってバ!」
これだからお子様は困るんだよね、とでも続けそうな顔をして、
パササが大げさに肩をすくめた。
そのノリについていけずに、プーレは呆れ顔になってしまう。
パササのノリは、時々ノリが良すぎてついていけない。
「何、そんなおじさんみたいなセリフ……。いったいどこで覚えたの?」
「気にしない気にしない〜♪
新しい言葉を覚えると頭よくなるんだよぉ?」
パササ本人ではなく何故かエルンに諭されて、プーレの表情は呆れから困惑になった。
“はいはーい。
馬鹿が意味もわかってない言葉を使っても、頭は悪いまんまだと思うぞー?”
「何だとー?!川にすてちゃうぞこの馬鹿石!!」
“あ、やめてよして。わー、家庭内暴力だー。”
全く危機感も切迫感も感じさせない、やる気の無い棒読み口調。
これがまた頭にくるのだが、エメラルド相手に本気になる方が馬鹿らしい。
「もー、けんかは後でやってよ!」
けんかをされるとうるさい上にうっとうしい。
もちろん声を聞きつけて好戦的な魔物がよってくるという弊害もあるが、
それ以前に前者の理由で下らない喧嘩は後にしてほしかった。
この先に待っている砂漠の暑さを思って、今からうんざりして気分が落ち込んでいるのだ。
いつもならもう少しさらっと流せるが、
機嫌があまりよくないのでプーレの怒声も自然に語気が強くなる。
「パササもだけど、エメラルドもあんまりからかうなよ……。
暑いのに喧嘩したら余計暑くなっちゃうぞ?」
「ム〜……。」
パササはまだ気分が収まりきらないようだが、暑くなるといわれてしぶしぶ矛を収めた。
確かにけんかをしてかっかすると、気持ちどころか体まで熱くなってくる。
ただでさえパササにとって好ましくない気温なので、
アルセスに諭されたことも手伝ってけんかを放棄してくれたらしい。
喧嘩が収まって気が済んだらしく、もうプーレも何も言わなかった。


歩けば歩くほど、ダムシアンは確実に近くなっていく。
そして、それと同時に砂漠の熱気も近づくにつれて、気温は上がり湿度は下がる。
歩くこと2日。
一行は、次なる地を目指すに当たって避けては通れない憂鬱の地・砂漠の国ダムシアンに到着した。



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気がつけばもう3ヶ月も更新してなかったというふざけた展開ですみません。
相当頻繁にストップがかかってました(おい
段々書く速度が落ちていってます。年々退化してるというべきでしょうか。まずいですねぇ。
多少文章が手抜きくさく見えても、
これ以上延ばしたくなかったという意思の表れということでスルーしてください(汗